株式会社北三陸ファクトリー

―震災後の挑戦と希望の道筋
岩手県九戸郡洋野町に拠点を置く水産ベンチャーで、2018年10月に設立。代表取締役CEOは下苧坪之典氏が務める。「北三陸から、世界の海を豊かにする」をミッションに、高品質なウニを育てるノウハウを活かし、新たな「ウニ再生養殖システム」の技術で世界と繋がり、持続可能な水産業の未来をつくるための取組を推進している。
ヒ ト 震災前、震災後、人と関わりこの地で生きていく

「地元に再び活気を」を目指した震災前
株式会社北三陸ファクトリー(「ひろの屋」100%子会社)は、「北三陸から、世界の海を豊かにする」をミッションとして、事業を行っている。経営者の下苧坪(したうつぼ)氏は、曾祖父の代から代々、北三陸の水産業と向き合っている。
下苧坪氏の父親は、2010年株式会社ひろの屋を創業した。事業を引き継ぐのではなく起業した背景には、「洋野町の水産業を変えたい」という思いがあったという。
洋野町は、1980年代から徐々に人口が減っていっている町だ。1980年には24,403人が住んでいたが、2000年には20,465人に、そして2010年には17,913人に減っていた。そんななかで、「疲れ切っている地域を復興したい、洋野町を再び活気のある街にしたい」と考えて、下苧坪氏は事業を始めることを決めた。
しかし洋野町に帰り、会社を設立した1年後の2011年、東日本大震災が起きる。
洋野町は幸いなことに亡くなった方はゼロだったが、その金銭的被害は65億円にものぼった。
しかしこれをチャンスととらえ、良質なウニやアワビなど全国に誇れる海産物がたくさんある、洋野町をはじめとする「北三陸」のブランド化を目標に、ひろの屋の戦略的ブランドとして「北三陸ファクトリー」を立ち上げることとなる。
漁師とともに取り組む地元の復興
そのような大震災の被害のなかにあっても、下苧坪氏はこれをプラスにとらえようとした。人口が減り、水産業に関わる人の数が減っても、漁師とともに水産業を続けていくことで、洋野町の水産業を盛り立てられると考えたのだ。
「洋野町の海産物のブランディング化」を基本に、洋野町ならではの質の良い水産物を打ち出そうと志した下苧坪氏が目を向けたのが、高級食材として名高い「ウニ」である。
着眼点 この場所でしか作れないウニブランドの確立を

地元漁業者が培ってきた、漁場とウニのブランド化
元々三陸地方(青森県・岩手県・宮城県)は、ウニの名産地として知られている。日本国内でウニが最もよくとられるのは北海道だが、2位は岩手県であり、そのなかでも洋野町は高い漁獲量を誇り、本州ではウニの水揚げNo1の地域である。
洋野町では、約60年前、もともと広大な岩盤地帯であった漁場を掘削し、天然の昆布が豊富に生える漁場を作った。加えて、ウニは4歳が一番の食べごろであるが、この掘削した漁場を活用し、食べごろの4歳~5歳のウニをお客様に提供できるよう、そのサイクルを漁業者が管理をしている。
そこで採れたウニは、実入りも良く、味も旨味・甘味がしっかりあり、色も綺麗な最高品質のウニ。しかも、その漁場は世界中どこを探しても洋野町にしかなく、世界で唯一のものであった。
しかしながら、市場に出れば、「洋野町」の名前は出ずに「三陸産」で一色単にされてしまう現状があった。
そこで、下苧坪氏は「この地域に必要なのは、“力強い地域ブランド”である」と確信し、その漁場を「うに牧場®」と名付け、商品の品質向上とともに、いかにして広めるかを必死で考えた。
「うに牧場®」の「牧場」という響きは、発足当時は「まるで養殖物のようだ。うちのウニは天然産なのに。」ということで、一部で反対もあった。しかし訴求力の高さを考えて、あえてこの名前をつけることとした。
うに牧場®のなかでも特に特徴的なのが、四年間かけて育てられたという点である。高い香りと豊かな旨味、そして大きな身は、ほかのウニとは一線を画すものだ。この四年もののウニは、多くのファンを生み出した。
北三陸ブランド~うにの再生養殖
株式会社北三陸ファクトリーのうに牧場®では、「ウニの再生養殖」に取り組んでいる。
ウニは海藻類をエサとして繁殖する。
しかし地球温暖化によって海水温が上昇。このウニが活発化したり、増えすぎてしまい、海藻類が育つスピードよりもウニが海藻類を食べつくしてしまうスピードの方が速くなるという現象が起きている。これは「磯焼け」と呼ばれる現象であり、日本でも年々その範囲が拡大している。
ウニは「たくさんあればあるほど良い」というものではない。エサが足りなくなったことで、身のやせ細ったウニが大量に海中に生息するようになった。この「やせウニ」は、かつては「駆除」するのが主だった。
しかし、北三陸ファクトリーでは、この磯焼け海域のウニを商品価値のあるウニに変えるべく、「うに再生養殖システム」を確立した。北海道大学大学院水産科学研究院をはじめとする研究機関や事業者との協力のもと、実入りを改善しながら天然に近い食味を実現する「餌」、ウニを育てるための「カゴ」を開発。また、北海道の積丹(しゃこたん)町の取組を参考に、枯渇してしまった藻場を再生するため、ウニの殻を使用した堆肥ブロック海に沈め、そこに新たな昆布などの海藻の種を蒔き、藻場の再生の実証実験に取り組んでいる。このプロジェクトによって、やせウニも身の実入りのよいウニへと変わり、またその味も天然のウニに近づいたとされている。

連携 10年後、20年後のために、若い世代や海外との連携を結ぶ

次世代を育てるために小中高生に対する講義も行う
現在、株式会社三陸ファクトリーでは、積極的に次世代を育てるための教育事業や、磯焼けをはじめとする課題に対して議論しアクションに起こす場である「UNI SUMMITを開催している。海洋環境の課題や、自分たちの口に入れる海産物がどのようにして作られているかを知ることは、10~20年後の水産業者の担い手の増加につながるとして行われているこの事業は、2021年から続けられている。

持続性 1年を通して行うウニの育成、市場の拡大を目指す

北三陸ファクトリーでは前述の通り新たな「うに再生養殖システム」の技術で世界と繋がり、持続可能な水産業の未来をつくるための取り組みを推進している。
2023年に海外にも展開を始め、オーストラリアのタスマニアに現地法人を設立するに至った
この海外進出は、日本とオーストラリア、両国にとって有益なものになると期待されている。
世界共通の課題である磯焼けに対して、「うに再生養殖システム」が海の中の海藻も育ちやすくなり、解決に向け前進する一方で、これらの活動を「ビジネスにすること」で持続可能性を実現するの視点も非常に重要だという。
「私たちが特に着目しているのが「販路の拡大」ですね。どれだけ多くのウニを作ったとしても、売り場がなければ、育てたウニは出ていきません。また、ただ売るだけではなく、海を守る取り組みのストーリーとともに、商品を届けるのが重要と考えています。それを実現するために、ヨーロッパのマーケットにチャレンジすべく、2024年12月、ウニでは国内初となるEU
HACCPの取得を実現しました。」と下苧坪氏は語る。
今後、北三陸ファクトリーの活動は日本に留まらず、世界へ「洋野町」の名が認知されるのもそう遠くない未来なのかもしれない。
参考URLなど
株式会社北三陸ファクトリー|最新事例|産業復興
北三陸ファクトリーについて
はぐくむうに
世界初!! 磯焼けウニの蓄養ビジネスに成功
大分うにファーム・栗林正秀が目指す地域と海の救い方
https://www.uninomics.co.jp/our-business/solution