株式会社ロスゼロ

―地域を元気にする「Re:You」の挑戦
いかにして食品ロスを削減するかを目指し、使われないまま廃棄される原材料等に新たな付加価値をつけてアップサイクル商品化するブランド、「Re:You」シリーズを展開する株式会社ロスゼロ。気仙沼のいちご農家「シーサイドファーム波路上」で発生した規格外のいちごを「Re:You気仙沼みなといちご」として商品化、不揃いの形を活かしたビジュアルとともに好評を博し、復興にもつながる試みとして注目されている。
ヒ ト 食品ロスへの取り組みから生まれたイチゴ商品
食品ロスの削減で社会貢献を
株式会社ロスゼロの代表取締役・文美月さんはもともと、ヘアアクセサリーの製造・販売事業を行う一方で、使われなくなったアクセサリーを回収してラオスやカンボジアなどの東南アジアの国を中心とする発展途上国で販売、その売上を現地の職業訓練校に寄付するなどの活動に取り組んでいた。
あるとき、その活動に興味を持った食品メーカーの社長から「検品ではじいたチョコ食品の行き先がなくて……」と食品ロスに関する悩みを聞く機会があった。食品ロスについて調べているうちに、「ヘアアクセサリーの次は食べ物だな」と思った文さんは、2018年、食品ロスの削減という社会課題を解決する一助となるよう、新たな取り組みをスタートさせる。
さまざまな試みをする中で、食べられるのに食べてもらえる機会がない食材をいかそうと「Re:You」(りゆう)シリーズの販売を2021年に開始した。「Re:」には「環境の3R(リデュース・リユース・リサイクル)」に加え「再び返ってくる」という意味の「Re:」、「食べる理由(リーズン)」という意味を込め、「You」は、商品を届ける対象としての「あなた」、それらの意味を込めてブランド名とした。
気仙沼産のイチゴを商品化
2022年、「Re:You」シリーズに新たな商品が加わることになった。「Re:You 気仙沼みなといちご」だ。
きっかけは、「Re:You」のチョコレートを以前から個人的に買ってくれていた株式会社JTBの社員から、「気仙沼に美味しいイチゴがあるよ」と教えてもらったことだった。その中で、宮城県気仙沼市のいちご農家が、イチゴの生産に取りかかっても、イチゴの一部には大きさのばらつきが出てしまうため規格外のため廃棄され、美味しいいちごがなかなか流通に乗せにくいという事情を知った。
文さんは「『Re:You』シリーズで復興を応援できるような商品を作れないだろうか?」と考えた。そこから気仙沼のいちご農家「シーサイドファーム波路上」で発生した規格外のイチゴを使った商品の開発がスタートし、気仙沼産の規格外のイチゴをフリーズドライ加工したものをホワイトチョコと合わせたキューブ状のお菓子を生み出し、商品化にこぎつけた。

着眼点 規格外の形だから個性がある
バレンタインに合わせて注目を
イチゴの加工に入ったのは2021年の年末。バレンタイン向けの商品ではなかったが、チョコレートにメディアの注目が集まるタイミングでもあるバレンタインに向けて、作業を進めた。大阪の業者をみつけると、気仙沼からイチゴを大阪まで送ってもらい作業にとりかかった。年明け早々にフリーズドライ加工したイチゴをチョコレートの加工会社に回し、1月末、商品は完成した。完成品は東京の百貨店で開催されるバレンタイン・イベントで発表にこぎつけた。
不ぞろいを活かした商品が反響
使用するイチゴは形が不ぞろいで、一般に流通しているものと比べれば、どうしても形が悪くなる。でも味が悪いわけではなく、美味しいイチゴであることに変わりない。商品の開発にあたって考えたのは、不ぞろいであることを個性の一つとして活かすことだった。
「Re:You 気仙沼みなといちご」では、キューブ状にカットすることでイチゴの断面があえて見えるようなつくりになっている。一つ一つのイチゴの形を分かりやすくし、ビジュアル的にも楽しめる工夫を込めた。
それが「美味しい」という味への評価に加え、「見た目が可愛い」と反響を呼んだ。販売を開始した2022年1月からの累計で約510キロの規格外のいちごが活かされ、いちご農家の収益と食品ロスの削減に大きく貢献するに至っている。


連携 チームで生んだ商品
NPOをはじめ地元の人々が参加
文さんは「一つのチームみたいな形で企画を進めていきました」と言う。開発をスタートした時期はちょうどコロナ禍の真っただ中にあった。そのため、オンラインで協力を打診していき、JTBやシーサイドファーム波路上に加え、協力を得ていった。
気仙沼市で活動する認定NPO法人「底上げ」を立ち上げ、「気仙沼まち大学」運営協議会にも参加している成宮崇史さんが「ロスゼロ」と農家との橋渡しなどに携わり、気仙沼市出身・在住のグラフィックデザイナーの志田淳さんが「Re:You 気仙沼みなといちご」のデザインを担当。気仙沼という地を舞台に、さまざまな立場の人々が参加し、それぞれの強みをいかしながら開発を進めていった。まさにチームとして商品を世に送り、流通させるに至った。
気仙沼の人々にも意味をもたらした
購入した人々から高評価を得た「Re:You 気仙沼みなといちご」は、アップサイクル食品コンテストにて「JR東日本賞」を受賞し、テレビ東京「WBS」など、多数のメディアで取り上げられた。それらを通じて、気仙沼の魅力を全国にPRする効果を生むとともに、インターネットや全国の百貨店や法人向けに販路を拡大している。また、一部商品がふるさと納税の返礼品に採択されたことも広がりの一つだ。「復興を応援できるような商品を」という願い通り、消費者へ「復興応援」を、そして「食品ロス削減」へのアクションを促している。
成宮さんは商品によって新しく生まれた意義をこう語る。「こういう商品が気仙沼からできることで、気仙沼という街を県外の方々にも知っていただけるということは、間違いなく大きなことだと思います。それから食品ロスに関しては、今回の商品によって新しく生まれた出来事が一つあって、地元のイチゴを使ってこういう商品を作ることで、気仙沼市内でも食品ロスに関する意識が少しずつ芽生えてきているように感じます」と。
成宮さんは市内の小中学校で話をする機会が何度かあり、「自分たちのまちにこういう食べ物があったんだ」、「自分たちの街でも食品ロスの問題があるんだ」という意見をもらったという。地域にとっても大きな意味を持つ商品となった。


持続性 イチゴに限らずチャレンジを
海外でも反響
2023年5月、ニューヨークのブルックリンで「Female Start-Ups -Japan to Brooklyn」という女性起業家がプロデュースしているサステナブル・ブランドを紹介するイベントに展示。そこでも「復興に繋がるような食品作りをしていて素晴らしい」という反響を得た。海外にも東北の魅力を発信するべく、今後の海外展開を見据えている。
また、文さんは「地元の方々が他の食材で何かあるのであれば、イチゴに限らず色々とチャレンジしていきたいとは考えています」とも語る。
気仙沼でできた縁を大事にする
文さんは、「ロスの活用はまだまだ可能性があり、そうした分野で貢献していきたい。サーキュラーエコノミー(循環経済)の時代において、ロスゼロの強みを活かしながら、今後も積極的に取り組んでいきたい」と今後の展望を語った。
また、気仙沼で築いた関係を大切にしていきたいと考えているという。
「ご縁を大切にするという意味でも、まずは気仙沼を中心に良質な食材を探し、私たちにできることがあれば積極的に取り組みたい。ロスゼロは大阪の企業だが、食品づくりを通じて全国へ販路を広げ、さらには海外にも発信することが、被災地ではない地域の企業として果たせる役割だと考えている」と語った。
