夢団~未来へつなげるONE TEAM~

―釜石の高校生が描く復興の輪
夢団は、2019年12月、釜石市の高校生たちが結成した防災・復興活動グループである。東日本大震災を直接体験した最後の世代として、次世代に震災の教訓を伝え、日常の尊さを再認識してもらいたいという想いが活動のきっかけだ。
現在、夢団は約30名の高校生メンバーが所属し、語り部活動、防災教育ツールの開発、防災啓発イベントの開催などを行っている。また、地元住民や被災地外の人々と連携し、「震災の記憶」を未来につなげる新しいアプローチを模索している。
ヒ ト 高校生の想いから生まれた夢団
震災の教訓を未来へ
夢団~未来へつなげるONE TEAM~は、2019年12月に当時釜石高校生であった太田夢さんが「大震災を経験した記憶がある最後の世代として、記憶や経験のない世代に、今ある日常の大切さを再認識して欲しい」と考え設立された。同じ思いを持つ人々が集まり、現在は4代目の代表、佐々有寿さんの元で約50名のメンバーが登録している。
佐々有寿さんは、「語り部を始めるきっかけになったのは、東京の小学校で体験したことを話してほしいと言われたこと。自分は体験していなくても周りの人から聞いたことをうまく伝えることができるのでは?とその時考えました。私自身の当時の気持ちなどはお伝えできないのですが、家が津波で全壊した方の話など、周りの人の被災体験を伝えることで少しでも防災の意識が高まってくれると良いなと思う」と話す。
地域の支援者たちの存在:夢団を支える大人たちの力
夢団の活動は地域の大人たちの支援も受けている。「さんつな(三陸ひとつなぎ自然学校)」の代表である伊藤聡さんは、夢団の取り組みを支える存在として、生徒たちの活動をサポートしている。伊藤さんは、「若い世代にとって、防災はどうしても重いというイメージがある。だからこそ、楽しく伝えるという視点で活動してハードルを下げられたらいい」と語り、釜石まちづくり株式会社の常陸さんも「大人である私たちが細かく計画して実行するよりも若い世代が街の中で積極的に活動していくパワーには敵わないな、と思うことは多い。防災という難しいテーマを扱っていますが、いかに楽しく取り組めるかということを軸におきつつ、大事なことは引き継ぎながらも少しずつ形を変えてこれからも長く続けられるようサポートしていきたい」と語る。
このように、夢団の活動は、中心となる高校生たちの強い意志と行動力、そして地域社会や外部の支援者たちの協力によって支えられている。震災の経験を持つ世代から持たない世代へとバトンをつなぎながら、地域課題の解決と防災意識の向上に向けた具体的な取り組みを展開している。

着眼点 「楽しく学ぶ防災」をテーマに広がる取り組み
アイディアと生産力で、あおさの地位を確立した
夢団の取り組みは、「楽しく学ぶ防災」をテーマに、多彩なアプローチを展開している。例えば、子どもから大人まで楽しめる「防災すごろく」や「防災カルタ」の開発は、ゲームを通じて自然に防災知識を身につけられる工夫が凝らされている。そのほか、災害時に自宅の玄関に掲示し、避難の有無を知らせる「オリジナル安否札」を作成し、スタジアムの観客に配布する活動を行い、これらのオリジナル防災ツールは、地域のイベントや学校の授業で活用され、参加者や地域住民からも高い評価を得ている。
また、語り部活動では、震災の教訓を短時間で効果的に伝えるため、2分間に凝縮したスピーチを行っている。この手法は、聞き手の興味を引きつけ、記憶に残りやすい内容となるよう工夫されている。さらに、スタジアムでの試合開催時には、観客に向けて震災の教訓を伝える活動を行い、多くの人々に防災意識を広めているほか、動画制作やSNSを活用した情報発信にも力を入れ、メンバー自らが企画・制作した動画を通じて、震災の教訓や防災の重要性を広く発信している。
夢団の活動は地域だけにとどまらず、防災意識の向上と地域の絆を深める役割を果たしている。

連携
多様な主体との連携で広がる活動の輪
夢団の活動は、地域内外の多様な主体と連携しながら行われている。地元自治体である釜石市や、釜石まちづくり株式会社といった企業、さらには「さんつな(三陸ひとつなぎ自然学校)」などの団体が、それぞれの強みを活かしながら支援を行っている。これらの連携によって、夢団の活動は単なる学生の取り組みに留まらず、地域全体の復興と防災の一環として位置づけられている。
また、夢団の語り部活動では、釜石シーウェイブスという地元ラグビーチームとの協力が重要な役割を果たしている。ラグビーの試合開催時には、スタジアムを訪れる観客に震災の教訓を伝える場を設け、地域に根差した活動を広めている。この連携は、地元のスポーツ文化と防災意識の普及を結びつけるユニークな取り組みとして注目されている。
夢団が生む連携の価値
夢団の活動は、多様な主体が協力することで地域全体に広がりをもたらしており、単に震災の教訓を伝えるだけでなく、防災意識の普及、地域間連携の強化、観光や教育との融合といった多面的な価値を生み出している。例えば、インドネシアのアチェのバンダ・アチェ第一高校や 神奈川の防災普及学生団体「Genkai」との交流がよい例である。こうした取り組みは、地域復興のモデルケースとして他地域にも注目され、夢団の被災地とそれ以外の地域を結びつける役割は、震災の教訓を未来へとつなぐ道筋を描き続けている。

持続性
夢団活動を持続的に行うために、様々な工夫がなされている。例えば、活動資金を支えるため、クラウドファンディングや企業との協働プロジェクトが進められているほか、卒業生が大学進学後も防災関連の活動に関わる仕組みなども整えられつつある。特に、ウェブサイトやSNSを通じた情報発信に卒業生が協力することが、現役メンバーとの連携を深めるきっかけとなっている。
さらに、地元企業からの物品提供や、地域住民による活動支援などもあり、支援者や企業との連携による人的・物的支援が夢団の活動基盤を支えている。
夢団は今後、地域内外の若者や市民との連携を深めることで、震災の教訓を次世代に伝えていく活動を強化するなど、さらに活動の幅を広げる計画を立てている。また、SNSや動画を活用した広報活動を通じて、より多くの人々に防災意識を広めることも目指す。
その先には国際的な展開も視野に入れており、海外の防災事例を学びながら、夢団独自のアプローチを世界に発信することを目標としている。将来的には、夢団の活動が地域を超えて全国的な防災教育のモデルとなることが期待されている。
