浅野撚糸株式会社

―「フタバスーパーゼロミル」の挑戦
岐阜県で撚糸業を営む会社が、双葉町長の言葉に動かされ、双葉町にショップ、カフェ併設の新工場「フタバスーパーゼロミル」を開設。世界的に見ても唯一無二の特許技術(SUPER ZERO®)を有する同社が、地元の雇用促進、産業観光促進を通じた地域振興の取組を行い、「フタバスーパーゼロミル」が中心となって「原子力災害の町から復興の町へ」と双葉町の復興の軌跡を世界へ発信している。
ヒ ト 被災地で復興交流拠点を開業
被災地の雇用創出と経済の活性化
浅野撚糸株式会社は岐阜県に本社を置く撚糸業の会社だ。1967年に創業後、1969年に世界初の撚糸工場を設立、現在は創業者の浅野博氏の息子、雅己氏が社長を務め、雅己氏の息子の宏介氏が専務取締役を務めている。同社は、2000年代から自社ブランドのタオル「エアーかおる」を展開している他、2019年に双葉町を視察したことをきっかけに、2023年4月には双葉町に復興交流拠点「フタバスーパーゼロミル」を開業し、現在は復興に向けた雇用創出や経済の活性化に取り組んでいる。
きっかけは現地の熱意と第二の故郷への恩返し
2019年に経産省から企業誘致の提案をうけ、浅野撚糸株式会社は同社の社長以下、役員全員で双葉町を視察した。福島大学を卒業した社長の雅己氏にとって、福島県は学生時代の日々を過ごした第二の故郷でもあった。視察に同行した同社の役員は、視察前『ある程度復興も進み、家も建設されているだろう』と思っていたが、現地は全くと言っていいほど復興が進んでいない実状に驚いたばかりか、視察の最後に訪れた双葉町にはその時点でまだ町全体にバリケードが張られていた。視察した全員が現状を知りもしないのに楽観視していたことが急に恥ずかしくなり、同時に「日本にまだこんなところがあったのか」というショックが込み上げてきたという。
「双葉町を見て、浅野撚糸さんは『この町には来たくない』と思ったのではないか。双葉町は町民が本当に帰ってきてくれるか自分も想像できない…。ただせっかく今回色々な市町村を回ってもらったわけだし、せめて誘致を希望しているところに、うちの町でなくてもいいから、どこかに興味を持ってもらえたら、そして願わくは実際に来ていただけたらすごく嬉しい」という町長の言葉や、まだ復興には程遠い現状下においての、役所の面々の直向きで諦めない姿勢に「この人たちと一緒にやるのであれば、たとえ失敗しても後悔はしないだろう」と振り返る。
視察からの帰路、社長は直感的に「双葉町で決まりだな」と思ったという。

着眼点 地域と観光客を繋げるコミュニティスペース
「フタバスーパーゼロミル」は2023年4月に、工場・ショップ・カフェが一体となった復興交流拠点として開業した。中心となる工場には撚糸機20台が設置されており、本社工場と比べてもかなりの数の加工が可能な拠点となった。ショップ部分は2階建てになっており、1階では「エアーかおる」を始めとするタオルの販売を、2階ではアウトレット商品の販売が行われている。さらに併設されているカフェでは、ドリンク類以外に、ランチメニューや福島県食材を使用した双葉店限定メニューも提供されている。
同施設最大の特徴は「オープンファクトリー」であることだ。ショップでの買い物やカフェで飲食を楽しめる他、施設内の工場見学をすることもでき、「フタバスーパーゼロミル」がどのような経緯で作られたのかという歴史も見学することができる。また、音楽イベントなども行われている。
今後は工場の余剰稼働をさらに活性化させ、併せて「フタバスーパーゼロミル」で開催するイベントも増やし、施設の認知を高めることで、「フタバスーパーゼロミル」自体が双葉町の観光スポットのような場所になれるという狙いがある。
「震災が風化することで、被災地も忘れられ、復興は成し遂げられないかもしれないから、今のうちに本気で腰を据えてやらなければならないと」と雅己氏は復興への決意を示している。


連携 地域の活性化のため様々なイベントを開催
2023年の開設から現在までに「フタバスーパーゼロミル」では様々な団体や個人との連携イベントが行われてきた。
キャンドルアーティストのキャンドル・ジュン氏が代表を務める一般社団法人LOVE FOR NIPPONが主催した「双葉町だからできること」をテーマに行われているシンポジウムイベント「SOTE SYMPOSIUM」。
福島県と経済産業省が策定した「交流人口拡大アクションプラン」に基づき、浜通り等地域の15市町村の交流人口、活動人口を増やすことを目的とした広域マーケティング事業の一環で、HAMADOORI CIRCLE PROJECT事務局と一般社団法人HAMADOORI13が開催した、福島県 浜通りエリアの知られざる新たな魅力を発見し、体感し、地域や人とつながるイベント「HAMADOORI CIRCLE 2024」。
その他、双葉町出身のアーティストを招いて行うコンサートイベントや、テレビなどのメディアにも取り上げられている。
今後も「フタバスーパーゼロミル」では被災地の現状や地域活性化への取り組みを世界へ向けて発信を続け、工場をフル稼働させ生産能力を発揮し既に大きな反響がある海外に向けてのタオルや糸の輸出も今度更に力をいれていきたいと雅己氏は語る。


持続性 原子力災害被災地域からの復興都市を目指して
施設開設から2年が経ったとはいえ、依然として残る課題は人材雇用だ。若い世代の雇用のため、地域の学校で授業を行うなど積極的な人材募集を行い、高校生・大学生5名を雇用した実績があるが、「地元に帰ってきた人々が働ける場所」という当初の理想は、満足する結果には至っていない。町の生活インフラの状況などを鑑みても、双葉町に再び戻り居住する人は多くない。まして働き盛りの世代を見ればほぼ0の状況が続いたという。
現在の双葉町内には学校や保育園がない。町を離れ新たに生活を始めた土地で、仕事を見つけ、場合によっては新居を持っているのかもしれない。この現状はある程度は想定されていたものの、復興をさらに前へと進めていくためには、今後の人材確保への対策がますますの課題になっていく。
多くの方が双葉町が今現在、具体的にどの程度復興が進んでいるのかを知らない。だからこそ「フタバスーパーゼロミル」が双葉町と協力し、原子力災害からの復興を遂げるモデルケースになれれば、国内外の企業の双葉町への進出を促すことができ、復興のスピードも加速していくだろうという希望がある。浅野撚糸株式会社は今後、「フタバスーパーゼロミル」から海外市場の開拓を本格化することで、双葉町の復興を世界に発信しさらなる交流人口の増加を狙っている。いつか「双葉町はいったんは原子力災害で大きな被害を受けたが、皆が復興に向けて頑張ったから前よりもすごい町になったぞ」と言える日のために、今後もますます尽力していきたいと同社社長の雅己氏の想いを宏介氏は語る。
