アンデックス 株式会社
2023 05

アンデックス 株式会社

【宮城県仙台市】

3社協業で水産ICT事業を展開 作業効率化を図り、被災地に貢献

取組概要

ソフトウエアの開発やコンサルティングを行う企業。ITで被災地を支援しようと水産ICT分野に参入した。「マリンIT」を研究する大学教授から海洋観測ブイの提供を受け、海洋データ閲覧アプリ「ウミミル」を開発。漁業者が海で確認していた海水温などを遠隔確認する仕組みを作り、作業効率化を図った。実証実験後、NTTドコモ、海洋機器メーカーと共に実用化を進める。2023年までに全国の海にICTブイ100基以上を導入。競合相手とも協力し、マリンITの推進に努めている。

ヒ ト

地元の復興に水産ICTで貢献したいと思うも度重なる試練

東北高校硬式野球部で佐々木主浩氏、斎藤隆氏といった元メジャーリーガーと共にプレーし、甲子園も経験したアンデックス株式会社代表取締役の三嶋順氏。宮城県仙台市で生まれ育ち、周囲の応援を受けて成長したことへの感謝から、高校卒業後は地元での就職の道を選ぶ。

代表取締役の三嶋順氏
代表取締役の三嶋順氏

雪印食品株式会社、日東シュリンプ株式会社(現・株式会社ホウスイ)と食品業界を経て、畑違いのIT企業ネットワークサイエンス株式会社に転職。IT関連ビジネスの奥深さを知り、ITで地域に貢献したいと2008年にアンデックス株式会社を設立する。システム、ソフトウエアの開発やコンサルティングを行うも、そこにリーマン・ショックが直撃。当初の事業計画が崩れ、大変な時期をしのいだところに、東日本大震災が追い打ちをかけた。

幸い従業員は無事だったが、プロジェクトはすべてストップした。状況が落ち着くまで出社しなくていいと従業員に伝え、有志の社員数人と事務所を片付けながら、これからどうするかを考えていた。

「大変だと言って暗い思いでいるよりも、何ができるかと先のことを考えた方が明るい気持ちになれました。世界が東北を支援してくれているのだから、われわれ地方の中小ベンチャーもがんばっていこうじゃないかという思いもありました」と、三嶋氏は振り返る。ITを使った復興についての会議を開くなど、前向きに活動を続けた。

「自分たちが被災した地域にできることは何か」と思考を巡らせ、視察も行いたどり着いた答えの一つが、水産業の情報通信技術、水産ICTの開発により、地域の水産業者の作業効率化を図ることだった。当時は水産ICTに取り組む企業は少なかったことと、三嶋氏の水産商社とIT業界での経験を生かせることが理由だった。

「津波で壊滅的な被害を受けた宮城県、岩手県、福島県の水産業に何かお手伝いできないか、というのがそもそものスタートです。そして、被災地から新しいビジネスモデルを全国に発信できたらと考えました」と三嶋氏は語る。

着眼点

水産ICTで海洋データを生産者の手元に届け、作業を効率化

システム、ソフトウエアの設計、開発およびコンサルティングといった基幹事業を再開する傍ら、宮城県の後押しも受けて、水産ICTというアイデアを形にするためにリサーチを行う。

その中で、すでに水産業とICTを融合した新しい漁業である「マリンIT」を研究していた公立はこだて未来大学の和田雅昭教授の存在を知り、アプローチ。水産ICTで海水温を遠隔確認すれば、作業を効率化できると教えてもらい、海洋観測ブイである「ユビキタスブイ」の提供を受ける。和田教授からは、「宮城のカキやノリの生産者に使ってもらってみては」とアドバイスを受けた。

さらに、生産者へのリサーチで、海水温や塩分が非常に大事な要素だと知る。生産者はこれまで、時期になると毎日養殖場へ船を出してこれらの情報をアナログで観測していたため、時間がかかり効率も悪かった。

「その数値を海上に設置したユビキタスブイで測定してクラウドに送信し、蓄積したデータを活用することで作業の高効率化、安定化を図れるのではないか」。そう考えた三嶋氏は、2014年に実証実験を開始した。すでにセンサー情報を遠隔確認する仕組みを確立していた和田教授から、そのシステムも提供してもらった。そうして開発したスマホアプリ「ブイログ」を仙台湾で使用。まずは海水温をクラウドサーバーで24時間365日観測できる環境を構築した。

ICTブイから送られた情報をブイログで確認する仕組み
ICTブイから送られた情報をブイログで確認する仕組み

スマートフォンで養殖場の海水温をいつでもどこでも確認でき、測定のために船を出す燃料代や時間も削減できる。当然、生産者からの反応は良かったが、それを実用化しビジネスに展開していく上では、独自のハードウエア開発など乗り越えるべきさまざまな問題が残っていた。

チェンジマップフォーマット
連携・協働

ソフト、ハード、販促、3方向の連携が実り全国の海に100基以上導入

実用化に向けたハードルをクリアするためには、ハードウエアの開発や販促が必要不可欠だった。そんな折、株式会社NTTドコモがアンデックスの取り組みに興味を持ち、協働で事業を行うことが決まる。そこに、灯台など航路標識機器を手掛けるセナーアンドバーンズ株式会社が加わり、2016年には3社体制が出来上がった。

ソフトウエアやサーバーの開発・構築、保守・運営をアンデックス、ハードウエア(ICTブイ)の開発・メンテナンスをセナーアンドバーンズ、販促や導入支援をNTTドコモが行う。3社共同で制作されたブイは北海道から沖縄まで各地の海で、テスト導入と本導入合わせて100基以上浮かんでいる。

3社が連携し制作したICTブイ
3社が連携し制作したICTブイ

水産業はICTの導入が遅れている業種の一つだが、若手の漁師や養殖者はSNSで情報発信したり、マーケティングなどに活用したりもしていた。そうしたICTへの理解がある生産者と共に、実証実験とテスト導入、改良を重ねた。

海水温を観測するスマホアプリの「ブイログ」から、掲示板や作業日誌機能を追加したアプリ「ウミミル」を開発。漁師からの要望で海水温だけでなく、塩分も遠隔で確認できるようになり、2017年にはリリースした。生産者が操作するアプリのインターフェースの開発においては、「漁師さんのごつごつとした大きな手で操作することをイメージしました。説明書を読まなくても分かるようにデザインし、無機質な業務アプリにならないよう遊び心も取り入れました」とITエンジニアリング本部部長の鈴木宏輔氏は話す。

アプリ「ウミミル」の操作画面
アプリ「ウミミル」の操作画面

ハードウエアでは水深など各地の海の環境に合わせてブイの形状を変え、複数タイプを展開した。ユビキタスブイの普及も、「まずは100基を目指そう」と話していた当初の目標をクリアし、着々とその数を伸ばしている。

元々和田教授と共同でユビキタスブイの開発を行っていた株式会社ゼニライトブイはじめ競合相手もあるが、日本にマリンITを広めたいという和田教授の思いもあり、「競合だが仲間でもある」と鈴木氏。大学や民間事業者、自治体が情報共有と研究の成果発表を行う「マリンITワークショップ」が毎年開かれ、業界の発展を共に推進している。

現在は、経済産業省による地域DX促進活動支援事業の補助金を受け、生産現場から、市場、流通、水産加工、小売りまで、一貫したDXを進めていく取り組みを、行政や地元企業などとコンソーシアムを組んで行っている。

コレクティブインパクトフォーマット
持続性

未知の領域への挑戦が旗印となり、採用や事業にも波及

沖縄や九州の漁業協同組合にも導入が広がり、研究開発への投資を回収する段階に入ったが、「これで十分もうかるところまではきていません」と三嶋氏は包み隠さず話す。しかし、会社にはそれ以上に大きな意味がある。

「リーマン・ショックと東日本大震災に翻弄(ほんろう)されたベンチャー企業が、未知の領域に足を踏み込み、こういうビジネスモデルをつくった。そして、NTTドコモという国内最大手の企業と対等なパートナーとなって、被災地に貢献し、全国の海にその新しいビジネスモデルを普及させている。これは会社の大きな旗印になっています」と三嶋氏は語る。

水産ICT分野における東北の先行企業だと認知されるようになり、社会貢献できる会社として採用活動の場での存在感も増加。また、水産に限らず、異分野とICTを組み合わせたプロジェクトにも声がかかるようになった。例えば酒蔵。従来は人が確認していた蔵内の温度や気圧といった情報を、ICTによって遠隔監視と情報保存を可能にした。それらのベースにあるアプリ開発やシステム開発、サーバー運用の技術力に対する信頼から、受託業務も順調に伸び、「副産物として会社全体で利益が上がっています」と三嶋氏。

「アンデックスは地域のIT企業として地域とお客さまに貢献し、それによって社員とその家族の最大幸福を実現することを経営理念にしています。なぜ異分野に手を出すのか、もうからないことをやるのかと言われることもありますが、そもそも地域貢献をうたっているんです」と三嶋氏。さらに「ITで、お世話になっている地域やそこで働く人たちを幸せにし、それにより自分たちも利益を得る。それが一番の目的です」と力を込める。

海洋環境の変化や、資源や働き手の不足など、水産業を取り巻く課題は多く、その解決にICTが必ず必要とされる。今は緩やかな動きだが、いずれダイナミックな転換期が訪れることは間違いない。創業から一貫してぶれない信念で、その時に備える。

代表取締役の三嶋順氏

問い合わせ先

  • 企業・団体名

    アンデックス 株式会社

  • 代表者

    三嶋順氏[代表取締役]

  • 所在地

    宮城県仙台市青葉区大町1-3-2 仙台MDビル5F

  • WEB

    https://and-ex.co.jp/