特定非営利活動法人 体験村・たのはたネットワーク
2023 03

特定非営利活動法人 体験村・たのはたネットワーク

【岩手県田野畑村】

地域の自然・文化を満喫する「体験プログラム」で、景色以外の魅力も発信

取組概要

特定非営利活動法人 体験村・たのはたネットワークは、「日本一の海岸美」といわれる大断崖を有する田野畑村で2008年に設立。地域の多面的な魅力を観光客に伝えるため、小型船などを用いて自然や文化を満喫できる体験プログラムを提供する。東日本大震災によって船が流失したものの、中古船を活用して3カ月後には再開。被災者による語り部プログラムなども新たに開発し、体験者数を伸ばした。事業者や行政などと連携を強化し、地域全体で持続的な観光客獲得を狙う。

ヒ ト

東日本大震災後も変わらぬ景色を見せようと被災4カ月で体験プログラム再開

岩手県田野畑村は、「日本一の海岸美」とも称される、高さ200mの大断崖で有名な地域だ。高度経済成長期の頃は、毎日のように団体の観光客が押し寄せていたが、バブル崩壊によって団体客は減少した。そして、田野畑村に滞在する時間も減り、景色を楽しんだ後は現地でお土産の購入や飲食をすることなく、そのまま帰ってしまう観光客が多くなったという。

そこで観光客に、漁業や酪農を中心とした地場の1次産業や、歴史・文化を体験してもらい、田野畑村内での消費行動を促すため、2003年に体験村・たのはた推進協議会が設立された。現理事長の楠田拓郎氏は、元々東京で働いていたが、旅行好きが高じて2006年に自然豊かな田野畑村に移住。地元漁師が操る小型の磯船の「サッパ船」でのクルーズ体験を中心に、観光客向けの体験プログラムの提供に参画した。

徐々にメディアに取り上げられるようになったことで評判が広がり、年々集客数が増加した。2008年には特定非営利活動法人体験村・たのはたネットワークを設立し、楠田氏が事務局長(当時)に就任する。「地道なファンづくりが田野畑にとって一番の力であり、プログラムを通じてファンが増えていくことが何よりうれしいです」と話す楠田氏。さらなる集客に向けた施策を準備していたところ、東日本大震災が発生した。

理事長の楠田拓郎氏
理事長の楠田拓郎氏

津波によって、漁船のほとんどが流失。ただ幸いにも、サッパ船体験を受け入れていた漁師やその家族は無事だった。楠田氏は「震災後、海の調査をした漁師さんが『人工物は壊れていても、自然の景色はほとんど変わっていなかった』とおっしゃったのが印象的でした。この言葉を聞いて、早く体験プログラムを再開するためにもサッパ船を仕入れなければと感じました」と当時を振り返る。

震災1カ月後の4月には中古漁船業者から6隻を買い付け、7月には体験プログラムを再開した。ゴールデンウイーク前には交通インフラが復旧していたこともあり、徐々に観光客も回復したという。

着眼点

大自然や文化を体感できるプログラムを通して、人との触れ合いが魅力を高める

体験村・たのはたネットワークの体験プログラムは、「人との触れ合い」を特に重視して設計されている。最も参加者が多いのは「サッパ船アドベンチャーズ」。小型船を地元漁師が操縦し、名物である高さ200mの断崖を真下から仰ぎ見るコースで、広大な海を全身で感じることができる。

「船長を務める漁師さんには、コースの見どころや土地の歴史、魅力など最低限言うべき内容以外は、自由に話していいとお伝えしています。気楽な会話を通じて、地域の魅力がより伝わるのではと考えたためです。お客さまは漁師さんの話を聞きながら『すごい』と歓声を上げていて、その様子を見て漁師さんもやりがいを感じていただけています」

「サッパ船アドベンチャーズ」で断崖を仰ぎ見るコースを地元漁師が案内
「サッパ船アドベンチャーズ」で断崖を仰ぎ見るコースを地元漁師が案内

その他、遊歩道をガイドと歩く「みちのく潮風トレイルガイド」や、電動アシスト自転車で地質や地形を感じるルートを走る「ジオトレイルサイクリング」などもある。

地域の文化や歴史を伝えるプログラムも人気だ。「大津波語り部」は、東日本大震災の被災者が自らの体験を語りながら現地を案内する。2011年より開始し、「サッパ船アドベンチャーズ」に次ぐ実績となっている。他にも「番屋の塩づくり体験」では、海水を煮詰めて作る直煮(じきに)製法による塩作りが体験でき、子どもや孫と一緒に参加する人の多くから、「海水からこんなに真っ白の塩ができるんだ」と驚きの声が寄せられている。

「大津波語り部」で、震災当時の様子を説明する語り部
「大津波語り部」で、震災当時の様子を説明する語り部

こうした体験プログラムによって、田野畑村を訪れる目的や滞在中に楽しめる選択肢を増やし、地域の多様な魅力を再発見するきっかけにつながった。

チェンジマップ
連携・協働

観光客を呼び込むため地域全体で連携することで、相乗効果を期待

体験プログラムにおいて、地域の事業者との連携が欠かせない。例えば「サッパ船アドベンチャーズ」においては、サッパ船を操縦する漁師との協力が重要だ。接客時の自由度の高さは確保しつつも、漁師が顧客と自然に接することができるよう、運営側としてサポートも行っている。

「漁師さんはシャイで朴訥(ぼくとつ)な方が多いので、『自由に話して』とお願いするだけでは不十分な場合もあります。そのため、最初は運営スタッフもサッパ船に同乗し、船長にお客さんが聞きたがっていそうな質問を振るなど、会話のキャッチボールがスムーズになるよう意識しています」と楠田氏は語る。そうしたサポートが功を奏し、プログラム提供開始以降は利用客の数が1年で約2倍に増えた年もあった。漁師も、観光客が田野畑村を見て「景色がすごい」と感動する声を直接聞けることが、モチベーションの向上につながっているという。

田野畑村内での消費を促進するためには、プログラム内容の充実を図ることに加え、地域全体で連携して観光客を呼び込む取り組みも必要だ。そこで、田野畑村や岩手県観光協会、宿泊施設、観光施設、道の駅や食堂、土産物店などとの連携も進めている。

地域の事業者が定期的に集まり、会議を行う
地域の事業者が定期的に集まり、会議を行う

「例えば、観光客から田野畑村の魅力を聞かれた際、どの店舗や施設でも『この時期はウニがおいしいから○○のお店がお薦めですよ』のようにお伝えすれば、地域内での消費をさらに促せると思っています。地域全体で連携して一体感のあるおもてなしをすることで、相乗効果を狙いたいと考えています」と楠田氏は話す。

コレクティブインパクト
持続性

観光地づくりの司令塔となり、持続的な観光客獲得を目指す

震災後、田野畑村の観光客が増加する波が2度あった。1度目のきっかけは、被災地支援を目的にさまざまな旅行会社で提供された復興応援ツアーである。2度目のきっかけは、2013年に放送された連続テレビドラマの舞台になったことで、北三陸全体で観光客が急増。2013年度には全プログラム合計の年間体験者数が過去最高の約1万4,000人を記録した。

しかし、その後は徐々に減少。さらに2019年末からは新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、旅行や観光が自粛されたことで、観光客数はさらに減った。2019年度から4期連続で、震災直後の数字をも下回る状況が続いたという。

2022年以降は少しずつ回復のフェーズに入っているが、国内各地の観光地で、観光客の争奪戦になることは必至だ。楠田氏は顧客から選ばれる観光地になるよう、「DMO法人(観光地域づくり法人)」の設立を見据えている。

DMO法人とは、地域の食や自然、文化などの観光資源を活用し、関係者と共同して観光地域づくりを行う法人のこと。これまでは事業者や産業ごとに個別で取り組んできた観光施策を、DMO法人を中心に地域全体で協力・連携することで、地域活性化を目指す役割がある。

観光地としての魅力づくりのため、旅行ツアー企画の商談を行う
観光地としての魅力づくりのため、旅行ツアー企画の商談を行う

人口減少や少子高齢化などの課題に直面する中、国内におけるDMO法人の重要性は高まっている。国内のDMO法人では、複数の都道府県で広域組織を設立し、地域の特産物を活用したブランディングを実施し、インバウンド客の受け入れ数を伸ばしている事例もある。
DMO法人設立後は国からの補助金なども活用しやすくなるため、インフラの整備や設備の改修など、持続的に観光客が訪れるような地域づくりに取り組み、観光客の獲得を目指す予定だという。

「ほとんどの方にとって、旅行は年に数回程度のイベント。リピーターの獲得が難しい分野だと思います。そのため地域全体で協力し、観光地としての魅力づくりに取り組み、持続可能な観光地づくりにつながると思います」と楠田氏は話す。

問い合わせ先

  • 企業・団体名

    特定非営利活動法人 体験村・たのはたネットワーク

  • 代表者

    楠田拓郎氏 [理事長]

  • 所在地

    岩手県下閉伊郡田野畑村北山129-10北山崎ビジターセンター内

  • WEB

    https://tanohata-taiken.jp/

  • MAIL

    taiken-tanohata@car.ocn.ne.jp